EV 値を知って楽しく写真を撮る

カメラの話です。今回は EV 値のことを知って楽しく写真を撮ってほしいと思い、書きます。EV 値とはカメラに入る光の量(露出)の指標の一つなのですが、これが頭に入っていると、露出と表現のバランスを考えた写真が撮れるようになり、また普通のカメラではどんな状況でも完全に自分の思い通りの表現にすることはできないことも納得できるようになります。EV 値の決まり方と使い方が分かれば、自然光(定常光)を手中に収められるようになります。そうすると、(露出に関しては)写真撮影のときに納得して、気持ちよく撮影ができるようになってきます。

以下では、まず EV 値とはなんなのか、EV 値はどのように決まるかについて解説し、次に EV 値をどうやって使うかについて例を挙げながら説明します。そうして EV 値の基本的なところが分かった後に、「露出と表現のバランスを考えた写真を撮る」とはどういうことかについて詳しく見ていき、最後に「普通のカメラではどんな状況でも完全に自分の思い通りの表現にすることはできない」ことについて、ここもいくつか例を挙げながら説明していきます。

なおこの記事は、露出を決める 3 要素である、絞り・シャッタースピード・ISO について基本的な知識があることを前提として書いています。

EV 値とは

EV 値とは、「適正露出を割り出すための指標」です。適正露出とはなんでしょうか? いろいろ議論があるところかと思いますが、この記事では、適正露出というのは、「多くの人が、その写真が、明るすぎとも感じず、暗すぎとも感じないと思うような写真を撮るために必要な光の量」というような意味にしておきます。

EV 値について、以下のように定義していきます。

\displaystyle \mathrm{EV} = \mathrm{AV} + \mathrm{TV} - \mathrm{IV}

\displaystyle \mathrm{AV} = \log_2{\mathrm{F}}^2 = 2 \log_2{\mathrm{F}}

\displaystyle \mathrm{TV} = \log_2{\frac{1}{\mathrm{S.S.}}}

\displaystyle \mathrm{IV} = \log_2{\frac{\mathrm{ISO}}{100}}

 \mathrm{F} は F 値、 \mathrm{S.S.}シャッタースピード \mathrm{ISO} は ISO 感度のことを指しています。

数式だときっちり定義ができる(それと数式の方が理解がしやすい人もいる)ので一応数式を書いておきましたが、個人的には 2 つ目以降の式を覚えておく必要性はあまり感じません。2 つのことを覚えていればことが足りるためです。

  1. F 値=1 が  \mathrm{AV} = 0、シャッタースビード 1 秒が  \mathrm{TV} = 0、ISO 感度 100 が  \mathrm{IV} = 0
  2. それぞれ、露出を一段下げれば +1

2 つ目について補足します。写真の露出において、「一段」というのは、光を取り込む量が倍になったり半分になったりすることを言います。一段下げるというのは、光を取り込む量を半分にすることです。シャッタースピードは、倍速くすれば(例:1/30 秒 →1/60 秒)光を取り込む量が半分になるので、これで一段下がります*1。ISO 感度については、半分になれば(例:800→400)感度が半分になり光を取り込む量が半分になるので、一段下がります。F 値(絞り)についてはどうでしょうか? F 値は、 \sqrt{2} 倍すると(例:2→2.8)一段下がります*2。これらの法則を使って、AV・TV・IV を出せば、数式は覚えずとも EV 値を少し考えればいつでも出せるようになります。

EV 値の使い方

EV 値を出すことができるようになりましたが、これをどのように使えば良いのでしょうか? EV 値は、シーンごとに適正露出となるような絞り・シャッタースピード・ISO 感度を決めるために使っていきます。実は経験的にシーンごとの適正露出となる EV 値の目安があります。このページこのページこのページをご参照いただければシーンごとの表が載っているので見てみてください(他にもあると思います)。あるいは、これまで撮った写真の EXIF を確認して、どれくらいの EV 値だったのかを知ることもできると思います。これらの情報を参考にすると、それぞれ大体、快晴の EV 値は 15、日陰や曇りの時は 12,日の出や夕暮れになってくると 10、室内は明るいところで 9、暗いと 4、そして夜の屋外は 0 前後だ、といったことが分かってきます。

さらに快晴の時の EV 値を利用して、特定の ISO・絞りで適正露出となるシャッタースピードを出してみましょう。ISO100、F 値 11 の時(風景を撮影したいときとかですね)、シャッタースピードはいくらにしたらよいでしょうか? ISO100 のときは  \mathrm{IV} = 0 、F 値 11 で  \mathrm{AV} = 7 です*3から、適正露出 15 にするためには  \mathrm{TV} 15 - 7 = 8 にすればよいことがわかります。  \mathrm{TV} = 8 にするには 1/250 にすれば良い*4ので、ISO100、F11、S.S.1/250 が適性露出だとわかります。ISO100、F 値 2.8 の時(被写体以外をぼかしたいときとかですね)は、ISO100 で  \mathrm{IV} = 0、F 値 2.8 で  \mathrm{AV} = 3 ですので、適正露出 15 にするためには  \mathrm{TV} 15 - 3 = 12 にすればよいことがわかります。 \mathrm{TV} = 12 とするには、シャッタースピードは 1/4000 にすれば良いです。このような手順で、ある条件下で適正露出となる絞り・シャッタースピードISO感度を求めることができます。

露出と表現のバランスを EV 値を使いながら考える

基本的な EV 値の使い方が分かったかと思いますので、ここからは露出と表現のバランスについて EV 値を使ってどうやって考えていくかについて書いていきます。まず露出と表現のバランスとは何か? ということについてですが、(自然光での)露出を決める 3 要素である絞り・シャッタースピード・ISO 感度は、それぞれ露出量を変化させるとともに写真の表現的要素も変化させます。絞りは、被写界深度と言って、ピントが合っている範囲の距離を長くしたり短くしたりすることができます(ボケ量と言っても良いかもしれません)。シャッタースピードは、動く被写体の場合、撮影中にどれだけ被写体を動かすかを決めることができます(少し不適切ですが、簡単のため、以後このことを「被写体ブレ」と言うことにします)。ISO 感度は、これはあまり表現には関係しませんが、画質を決めます(感度が高い方が画質が悪い)。

上記 4 者(露出・被写界深度・被写体ブレ・画質)は相互依存関係にあります。例えば、被写界深度を変えようと思った場合は、絞り値を変化させる必要があるので、露出が変わってしまいます。そこで被写界深度と露出を維持しようと思うと、今度はシャッタースピードや ISO を変える必要があるので、被写体ブレや画質に影響がでてくることになります。このように、4 者には相互依存関係があります。そのことを認識して、写真を撮るときにどういうことを考えてパラメーターを選択するか、を具体的に見ていきたいと思います。

夕暮れ時を想定してください。上記のサイトで見ると、EV 値は大体 10〜11 です。ここでは 10 として進めます。ISO 感度は少し上げて、200 とすることにしましょう。このとき EV = 10 を達成する絞り値とシャッタースピードの組み合わせは以下の通りです。

F 値 シャッタースピード
1 1/2000
1.4 1/1000
2 1/500
2.8 1/250
4 1/125
5.6 1/60
8 1/30
11 1/15
16 1/8

夕暮れ時に静物を撮るとしましょう(例えば料理)。静物を、被写界深度浅めでボケを効かせた写真としたいとき、たとえば F2 で撮ろうとするとき、シャッタースピードは 1/250 必要となります。これは、静物においては十分なシャッタースピードですね(被写体ブレも、手ブレも標準あたりの焦点距離なら起こさない)。ということは、ISO 感度を 100 に下げて、シャッタースピード 1/125 でも良いかな、と考えることができます。露出と表現、どちらも達成できる状況ですね。

これが、被写界深度深め(F11 とか)で撮りたいとなると、シャッタースピードが遅くなり、手ブレが気になってきます。この場合、手ブレに強いカメラを使うとか、もたれかかったり三脚を使うなどして手ブレを抑えるとか、あるいは画質は多少犠牲にして ISO 感度を上げるとか、当初の被写界深度の予定を変更して F 値を少し下げてシャッタースピードを稼ぐ、という対策が必要になってくることがわかります(それぞれどれだけ上げる・下げるかは、上で書いたどれだけ変化させると 1 段分の変化になるか、を参考にしてください)。こういう感じで、EV 値を基準にすると「露出と表現のバランスを取る」作業を行いやすくなります。また、当初予定していた表現の方を変化させて、露出アンダーめで撮る、という発想もあります。これもバランスを撮る一例(「表現」の方を当初の想定から変化させることで、別の均衡点へ移動する)と言えるでしょう。

夕暮れで動体を取ることも考えてみましょう。どれくらい動くかにもよりますが、1/500 くらいは欲しいとしましょう。そうすると、上記表から F 値は 2 で、狙った被写体全てをぼかさずに取るのは難しそうです(これも被写界深度と被写体の厚みに依りますが、ここでは話を進めるために「難しい」としておきます)。最低でも F2.8 は欲しいな、と思うと、画質は多少犠牲にしても ISO 感度を上げて露出を稼ぐ、という選択になるでしょう。上記の例と同様に、表現の方を変えて、流し撮りができる被写体であれば流し撮りシャッタースピードはより遅くても大丈夫になるため、シャッタースピードを遅くして深い被写界深度で撮る、ということも考えられます。

最後に、風景の撮影を考えましょう。風景ではパンフォーカスにしたいと考え、求める F 値が 11 だったとします。この場合、シャッタースピードが遅く手ブレが気になります。この場合静物被写界深度深めのところで書いたように、いろいろな対策を講じる必要が出てきます。ですがここで風が吹いていて、被写体ブレを抑えるためには 1/125 は必要なときはどうしましょうか。ISO 感度を上げるか、絞り値を下げないといけません。ISO 感度だけで対応する場合、ISO は 1600 になり、画質の劣化は避けられなくなってきます*5。以上のように、限られた露出の中で表現のバランスを取る必要が出てきます。この例は 2 点目の「普通のカメラではどんな状況でも完全に自分の思い通りの表現にすることはできない」にも繋がります*6

カメラの限界を知る

極端な状況では思い通りに撮影できないな、という感想は、少し写真を撮っていればなんとなく抱くと思います。これを EV 値を使ってよりはっきり認識してみましょう*7

星空を撮るとしましょう。星空の適正露出は EV=-4 ということにします。ISO 感度 100 で考えると、F4 としてシャッタースピードは 240 秒必要になります。焦点距離にもよりますが、これでは星が移動してしまい、線のように見えてしまうはずです。そこで ISO 感度を上げる必要があります ISO3200 の場合は、8 秒で可能です(この場合は星は点にはならず)。可能ですが、やはりそれなりの画質劣化は避けられません。画質にこだわった星空撮影は、通常の機器では難しいわけです*8

次に快晴の状況下で、絞りを開けて撮影することを考えてみましょう(ポートレートとかで行いそうですね)。快晴の EV を 16 とし、F1.4、ISO100 で撮影するとします。このとき必要なシャッタースピードは 1/16000 ですが、一般的なフォーカルプレーンシャッターの最速シャッタースピードは 1/8000 なので、1 段分露出オーバーになってしまいます。機種によっては、最速シャッタースピードが 1/4000 だったり 1/2000 だったりする機種もありますので、その場合はより露出オーバーになってしまうことでしょう。これを解決するには、光の量を少なくする ND フィルター(カメラのサングラスみたいなものですね)を使う必要があります*9*10

また、居酒屋のような低照度の室内で、人を撮ることを考えてみましょう。シーンの適正露出は EV=5 として、F 値は 4、人は動くので 1/250 くらい確保したいなと考えると、ISO 感度は 12800 必要になります。となると、やはり画質の劣化は避けられないわけです。最近のカメラは ISO 感度 12800 でも使えるくらいの画質になりますが、最良の画質は ISO100〜400 あたりになるので、それと比較するとそれなりに(画質については)諦めないといけないことになります。そうすると、当初の表現は諦めて、 ISO 感度に余裕を持たせるためにあえてシャッタースピードは遅くして、被写体ブレを起こ「させて」動きのある写真にする、という発想もで浮かんだりするでしょう。それもまた良いと思います(表現の方を変化させて、別のバランスで露出の組み合わせをとる、ということですね)。

むすび

というわけで、EV 値のことが分かると、露出の面でいろいろと納得して撮影できるということが分かっていただけたかな、と思います。皆様が撮影するシーンを思い浮かべていただいて*11、それぞれのシーンの EV 値はいくらくらいなのか、欲しい F 値とシャッタースピードはいくらくらいか、その場合 ISO 感度はどれくらいにしたら撮れるのか、特別な道具は必要になってくるか、といったことを EV 値というツールを使っていろいろ想像してみてもらえたらと思います。そして実際に撮るときの露出調整にも EV 値を活かして、楽しく写真を撮ってもらえたら嬉しいな、と思います。

*1:ただし現在使われているカメラのシャッタースピードの刻みは厳密に 2 の累乗倍にはなっていません。1/1, 1/2, 1/4, 1/8, 1/15, 1/30, 1/60, 1/125, 1/250, 1/500, 1/1000 のようになっているはずです。そこは丸めて計算してください

*2:なぜでしょうか? 絞りというのは、カメラのレンズの中にある円の大きさを調節して光を取り込む量を調節する機構ですが、F 値はその半径の値です(より詳しくは、Wikipedia を参照してください)。半径が半分(= F 値が 2 倍)になれば、光を取り込む量=面積は円の公式(  {\pi r^{2}} )より 1/4 倍になります。ということは光を取り込む量=面積を半分にするには半径は  \sqrt{2} 倍すればよい、ということになります

*3:F1 のとき AV = 0, 1.4 のとき 1、同様に 2→2、2.8→3、4→4、5.6→5、8→6、11→7 となります

*4:1 秒のとき TV = 0、1/2 のとき TV = 1、以下同様に 1/4=2, 1/8=3, 1/15=4, 1/30=5, 1/60=6, 1/125=7, 1/250=8

*5:もっとも最近のフルサイズ機では1600まで上げても実用上ほとんど問題ないくらいの画質の劣化と言えるので、大きな問題にはならないかもしれませんが

*6:詳しい方向けに。上記で書いたプロセスは自動露出(P モード・A モード・S モード)でもたどり着くことができます。できるのですが、個人的にはマニュアル露出(M モード)の方が楽しいのではないかな、と思っています。カメラの自動露出は、いくつもある適正露出を出すための3つのパラメーター(絞り・シャッタースピードISO感度)の組み合わせのうち、常に自分の願った値を出してくれるとは限りません。絞りやシャッタースピードについては、自分の狙った値になるように A モードや S モードもありますが、それでも他のパラメーターは自分の思い通りになるとは限りませんし、その他のことはカメラに任せているので、思った通りのパラメーターにならないときにその理由が分からず不満を募らせてしまいます(私がそうでした)。M モードであれば撮影前に少し時間があれば 3 パラメーターを完全に自分が責任を取って設定できますから、納得して撮影できるため、楽しいのではないかなと思います(ただし露出がめまぐるしく変わるライブや、結婚式などのシーンでは調整時間が足りないので、自動露出を活用した方が良いと思います。したことはありませんが)。ただ、それを経験で覚えるのは大変かつ不安定なわけで、それを補助してくれるものとして EV 値があり、私自身もこれで M モードで撮りやすくなったため、EV 値を知ってもらえたらなという思いもありこの記事を書いています

*7:と書きつつ、以下の例は実際に撮ったことはないので、想像です。想像ですが、EV 値があれば、実際に撮る前に大体のことは分かる、という例にもなるかなと思います

*8:ちなみに調べたら、星の移動に合わせて撮影するには赤道儀という道具がが必要なようですね

*9:と書きはしましたが、実は最近のカメラに搭載されている電子シャッターは1/32000秒で撮れるらしいので、ND フィルターを使う必要は無くなります。すごいですね

*10:また、主題から外れるので本文では書きませんでしたが、晴天下長秒露光時の ND フィルターの濃度も事前に大体決定することができます。例えば晴天下の水流風景を長秒露光で撮影したいとき、F11・シャッタースピード 30 秒・ISO100 で撮りたいとすると、この EV 値は 2 となるので、晴天時の EV 値 16 との差 14 段分を ND フィルターで埋める必要が出てきます。詳細は割愛しますが、ND フィルターは ND1=0 で、ND2, 4 と 2 の乗数に従い +1, +2 となるので、ND1000 + ND16 が適正露出のためには必要になる、ということが分かってきます

*11:例えば、屋外静物・屋外景色・屋外スポーツ・動物園屋外・室内料理・室内静物・動物園屋内・屋内スポーツ・電車(動体)・電車(静物)・夕焼けのシルエット撮影・居酒屋・キャンプ・花火・天の川、などなど